聡明な貴族

41人の貴族がいる。彼らは聡明であるが、お互いにその聡明さを誇っているがために非常に仲が悪く、そして孤独で気高い。それで誰かに質問をしたり物を教えてもらうようなことがあるくらいならば、死んだほうがましだと思っている。彼らは皆その領土の管理を自分の執政に任せているが、その執政は皆邪悪で領主に隠れて横領を働いている。誰もがその事実を知っているのに、貴族達の近辺のことを知らせることは己の身を危うくするので誰もそれができないでいた。

それを見かねた王が、ある日貴族達に通達を出した。

お前達の執政の中に横領を働く邪悪なものがいる。そのような邪悪な執政をのさばらせておくことは万死に値する。二ヶ月猶予をやろう。邪悪な執政たちを全員、法に照らして捌け!その程度のこともできない奴には、執政が邪悪かどうか教えてやる!

貴族達は恐れおおのいた。「執政が邪悪かどうか教えて」もらうなんてあまりにも屈辱的だ。

なお、貴族達が唯一の情報源としているものは新聞である。この新聞は、他の領土のニュースは載るが自分の領土のニュースはカットされたものが送られるようになっている。彼らは自分の領土のことを新聞から読むなど耐えられないのだ。カットされていないものが誤って貴族に届いたときには、この新聞社は危うく潰されるところであった。つまり、この新聞には他の貴族の動向や配下でない執政が横領をしているかは書かれているが、自分の領土に関する情報は一切ない。

さて、執政たちは法にのっとり死刑になるだろうか。(ただし横領は死刑らしい。)

わかりにくいという指摘があったので、もう一度書き直してみます(6/18 00:53)。

まず重要な前提として、執政の悪事がその領主の知るところとなった場合、その事実は各領地の翌日の新聞に掲載されるものとします(もちろん当の領地の新聞には掲載されません)。

王のお触れはつまり「横領をしている執政が一人以上いる」ということを意味している。

貴族が一人しかいない場合を考えると、彼または彼女は自分の執政が悪事を働いているのをたちどころに知るでしょう。

貴族が二人だとしましょう(それぞれA, Bとします)。仮にAの執政が潔白だと仮定します。Bはそれを知っているので、「横領をしている執政が一人以上いる」という前提から、自分の執政が不正を働いていることを知るでしょう。次の日の新聞でAはそれを知るはずです。

ところが、Bの執政の悪事は露見しません。なぜなら仮定がまちがっていて、Aの執政もまた不正を働いているからです。翌日新聞に記事が掲載されないということから、Aはそのことを知ります。

BもAと同様の推論をするので、翌日に2件の悪事が露見します。

ここで同様に、n人の貴族について(n-1)日後にすべての執政の悪事が露見すると仮定して、一人増えて (n+1) 人になったときにどうなるかを考えてみることにします。

貴族の一人Aの執政が潔白だとすると、残り n 人の中で1人以上の悪い執政がいるということになり、Aに関しては無視することができます。仮定により (n-1)日目に全執政の悪事が露見するはずです。ところが彼らの悪事は露見しません。なぜなら仮定がまちがっていてAの執政は潔白ではないからです。

よって、n日目に(n+1)人すべての悪事が露見します。

数学的帰納法により、任意の n組の貴族/執政について、(n-1)日目に悪事が露見することが証明できました。

以上