フユシャク

ユーモラスな動きで知られる尺取虫の親は尺蛾と呼ばれる種類だ。幼虫の名前がつけられていることからわかるように、成虫はそれ自身ぱっとしない小振りで地味な蛾だ。だが、尺蛾の中でもフユシャクと呼ばれるものたちは一風かわっている。なにせ、寒風吹きすさぶ冬の夜にひらひらと舞うのだ。といっても舞うのはオスだけだ。メスは羽がなく、木の幹にとまって、じっとオスが訪れるのを待っている。オスもメスも成虫になるとエサは一切とらず、ただひたすら生殖のためだけに生きるそうだ。

冬の寒い夜、多磨霊園のそばで緑がかった小さな蝶蛾の類が飛んでいるのを見た気がして、幻だとばかり思っていたが、多分それがフユシャクのオスだったのだろう。

写真でみたが、羽のないメスの姿はどこか可憐だった。なんだか寒い中飛びまわるオスの気持ちがわかるような気がした。