蜘蛛化

ネカマ作戦記(http://www.sakusenki.com/)

自分専用の出会い系サイトを立ち上げてしまった、かなり「痛い」男に、2chの有志がネカマとなって近づき、ねちっこくなぶったプロジェクトの記録。もう2年以上も前に盛り上がったネタらしいのだが、いまさらながら面白く、大河小説のような膨大なテキストを少しずつ解読している。

「主人公」の古式若葉という男は驚くほど自己中心的でしかも想像力のかけらもないキャラだ。ただ自分の単純な欲望を満たすだけのためにネットを利用している。出会い系サイトを立ち上げて、一見他者との出会いを求めているようだけど、他者が自分に与えてくれるもの(萌え要素)だけが必要で、他者そのものにはほとんど興味を持つことがない。つまり、彼の欲望には本質的に他者は必要ではないのだ。

そういう彼の愚かしい行動や言動を嘲笑いながら思ったのだが、彼を笑う心理の中には、自分はここまでひどくないよと安心したい気持ちが含まれているような気がする。また、ネカマと知っていても、彼らが書いたテキストに萌えの要素を感じてしまう自分自身に驚きを感じたりもするのだが、それはつまり、萌えというのはもともと具体的な人物に向かうものなんじゃなくて、ひとつひとつの要素―ネットなど文字ベースのコミュニケーションの場合には書かれたもの(エクリチュール)―に向かうものだということを示しているのではないだろうか。

古式若葉はとてもわかりやすかっただけで、実のところ彼はぼくたちのカリカチュアに過ぎないような気がする。ぼくたちもまた、コミュニケーションと称して他者を一方的に利用し、エクリチュールの海の中で自己充足している。それはつまり「動物化」ということだが、場所がネットだけに、「蜘蛛化」とでも呼んでみようか。網をはってそこに一方的に利用するための獲物がかかるのを待ち構える。それは古式若葉のしたことだし、彼をはめた2チャンネラーたちのしたことだ。