石をひろう

朝というかもう昼近く。前から歩いてきた女性がすれちがう直前にかがみこんで石を拾った。その動作はとてもスムースで一分のすきもなかった。掌の中におさまる前にちらっと垣間見たが、石は、平べったくて、ごつごつしていて、一番幅があるところで3cmくらいの大きさのものだ。石を売る商売もあるらしいが、決してそういう対象になるはずのない、平凡というよりは醜ささえ感じさせるものだった。

そのあたりにかたまって石があるわけではないし、大きさも小さいので、離れたところからその石を見定めていたとは考えにくい。だが、発作的に拾ったにしては、全身の動きひとつひとつが調和がとれていて、どんな迷いも感じさせなかったのだ。考えられるのは、以前からその石に興味をもっていたというシチュエーションだ。

多分何かいやなことか気分の落ち着かないことのある日だ。朝出かけるとき、眠くて定まらない視線が、ふと路傍の石をとらえる。そしてこう考える。帰ってくるときにあの石はまだあそこにあのままの姿であるだろうか?

帰り道。開放感で軽くなった足取りで歩きながら、朝見かけた石のことを思い出し、それがまだそこにあることを確認する。すると、何か妙な愛着がわいてきて、どうしてもその石をひろわざるをえなくなる。