脳という虚構


物象化された対象としての“脳”は、頭蓋内に生起するさまざまな物理現象から意識活動に直接関連する本質的な要素を切り捨て、恒常的な構造という特質を抜き出して再構成した虚構的存在に過ぎない。意識活動に係わる協同現象は、ニューロンの集団的・持続的な興奮として実現される4次元的な拡がりを持った複雑なプロセスである。ところが、電気化学的な興奮過程は視認できないという物理的制約もあって、こうしたダイナミックな要素はしばしば看過され、時間的変化の乏しいスタティックな部分が“脳”として捉えられることになる。この結果、硬膜に包まれた表面にしわのある灰白色の物質的存在としての“脳”が、頭蓋内物理現象を担う実体であると錯覚されてしまうのである。